就活

雪の舞う土曜、某化学系の学会が主催する、理系学生向け就職関連のイベントにパネリストとして参加した。30分ばかり会社の研究開発体制などについて話をして、次に演者6人が壇上に座って学生からの質問に答え、さらに会場を移して、各演者が散らばって、関心のある学生がその周りで質問したり話を聞く、というものだ。1時半から始まって終わったのは8時ごろだから、結構本格的なイベントである。

他の大手化学会社や食品メーカーなど、学生の興味を引きそうな企業の若手研究者がパワーポイントを使って説明していくのに対し、わたしは弱小香料メーカーの古参社員として、その場で唯一理系ですらない分際で、しかもパワーポイントなど使わずお話だけというものであった。他の演者にも多少緊張している人もあり、面白いのは聞く方の学生たちもイベントの趣旨を理解していないのか、皆リクルートスーツで緊張の面持ちで聞いている。緊張していないのは学会幹事の大学の先生方やわたしだけである。わたしはいつからか、人前で喋ることにまったく緊張を感じなくなっている。会社創業者の足跡を歴史と絡めて一気に喋りつづけるという、他の演者とは毛色の全く異なる話になった。

第三部の交流会の席では、うちだけ学生が来ないのではないかと危惧していたが、結構たくさんの学生が聞きに来てくれて、わたしは香料業界や調香師の世界についてあれこれ話をした。少しでも香料や香りに興味を持つ学生が増えてたくさん応募が集まれば、その中からより優秀な学生を採用できる可能性が高まるわけだから、会社や業界にとっても少しは役に立つことであろう。わたしなどはバブル以前の就職で、今の学生にくらべれば就活といえるようなことは何もしていないに等しい。何も真面目に考えず、成り行きで会社を選んだ(というより、会社が選んでくれた)だけの話なので、特に理系学生の役に立つような経験は何もないので、自分のことよりも業界や働き方の実際をイメージできるような話を多くした。人に話すと、香り作りというのは楽しいものだと再認識することが多く、わたしはこれまでにも調香の実際やパフューマーになるまでの過程の説明をわりと頻繁に話して来たように思う。このイベントへの参加の依頼が研究開発部門にあり、人を出すのを渋った同部門が広報に丸投げしてやむなく引き受けた仕事であったが、他の演者の方たちや幹事の大学の先生たちとも話すことが出来て、結果的に面白い一日になったように思う。