新旧の知己

十一月十八日(土)雨
今週は水曜に、鎌倉にギャラリーを構へる有名寫眞家のJ氏と仕事の打合せの後、鎌倉で飲む機會があり、金曜は高校時代の友人で二十年以上会つてゐなかつたI氏と蒲田で飲んだ。ともに話題も豊富で深い話が多く、久しぶりに知的な興奮を覚えた。ふたりとものめり込むと周りが見えずに集中してしまうタイプだったのも面白い。J氏の佛像、特に金剛力士像に關する造詣は深く、大いに勉強になつた。氏の佛像寫眞は壓巻で、滝のモチーフとともに余が最も愛好するシリーズである。香りにも興味をお持ちらしく拙著を差し上げた處讀んで貰へたやうで有難い話である。松岡先生が認める寫眞家のひとりでもあり、今後も交誼を得たいものだと思つてゐる。I氏はW大學文學部教授のフランス人女性と再婚して、分子生物學、寫眞機のレンズ、映畫、落語などを興味の對象としてのめり込んだ後、今は小説に戻つたといふ。それもあつて久しぶりに余に連絡をして來たものらしい。高校時代の文藝部の仲間だからである。尤も余は文學から離れて久しく、専ら歴史の方に傾いてゐるので鷗外の史傳や、余が書き始めた井岡道安の評傳のことなど話したら興味を持つたやうである。レンズに壱仟萬圓近く費やし、映畫は一時年に七百本觀たといふ。釣りに行つて大怪我をして人工關節を入れた爲に杖をつき、ごま塩の顎鬚を顔の輪郭にしたその風貌は初老を思はせるが、話せば中々意気軒昂であつた。無職ながら生活に困つてゐる様子はなく、好きな事が出來る身分は羨ましい限りである。