りり

十二月二十三日(土)晴
埼玉に家を買った。わりに広くてちょっとした庭もある。横浜にこだわらなければこんなに広い家に住めるのだと知り、もっと早くに決断すべきだったと思った。前の家を買う際に比較のために他県の物件を見ていれば、きっとこちらを選んでいたに違いないのだ。それに地元の人たちも親切で、地域社会というものがまだ根付いているのを感じる。そこに遠い親戚らしい若い女性とその娘がやって来て、私のところで娘を預かることになった。三歳くらいの、ちょっと暗い影のある、しかし顔立ちの綺麗な可愛い女の子である。私が最初りりというその名前を聞き間違えてゆりと呼んだのをいつまでも覚えていてたまに私を責める。しかし私にはよくなついていていつも一緒に手をつないで散歩に出かける。わりと起伏に富んだ地形で、坂を下りると大きな寺があった。巨大な水槽に山門が高さの三分の一ほど浸かっていて、私は保存のためにそうしているのだろうと思う。りりは途中から抱っこをねだるので抱っこしてやる。一方で、我が家の亭主らしい三十過ぎの男が、近所に住む同じ年ころのこぎれいな主婦に笑顔で声を掛けているので私は咄嗟に不倫を疑うが、どうやら妻が働けそうなこの土地でのパート先などを聞いているらしい。私はありがたく思う。それから、家でパーティをやることになり、地元の人を含め大勢のひとがやって来る。りりは途中でぐれた中学生になったり、もとに戻ったりしながら成長していく。それでも実の親子以上になついているようで可愛くて仕方がない。知人はりりが魔性の女になりそうだと言うが、私も三歳にして女の性(さが)を生きているからねと答える。私にたまに「きつく抱きしめて」などと言うからである。パーティの客はその後連れ立ってどこかの店に行くと言っていなくなった。私は別件で車で出かける。通ったことのない坂道を車が下りていくのを見て、これがどこに通じているのか行ってみることにした。すると途中にガソリンスタンドがあって、値段がずいぶん高いなと思っていると、「これは大きな声では言えないが、あの値段で支払っても地元の人には後で500円キャッシュバックされるんだ」という声が聞こえる。よそ者に高く売りつけて儲ける魂胆であるらしい。田舎の閉鎖性・排他性はまだ残っているのだなと複雑な思いである。