円柱の高みより

   街中に高さ10m以上はあろうかという円柱が一本立っている。頂上の面は畳半畳ほどの広さがある。わたしはどういう訳かそこに登って天辺で腹ばいになっている。飛び降りるには高すぎるし、円柱なのでつたわって降りることも出来ない。わたしは下にいた会社の同僚塚本氏に助けてくれ、消防署に連絡して梯子車を出すように手配してくれと頼む。普段はへらへらして頼りにならない男だが、流石に動いてくれたようで、近くのビルの途中の階からスルスルと梯子が伸びて、高層ビルの窓拭きに使われるゴンドラのようなものが近づいて来た。わたしのように登ったはいいが降りられなくなった人が今までにもいたのだろう、それに備えた装置が用意されていたのである。わたしは少し安堵した。ゴンドラには何人か乗っていて、わたしに近づくと反動を利用してこちらに乗り移れという。少し怖かったがやってみると何とかゴンドラに乗り移り、すぐさま運ばれた先は自分が引っ越して来た家であった。ちょうど荷物が運び込まれている。消防署の人が、手伝ってくれたのはこの引越し業者なので何かお礼をしたらどうかというので、感謝の念で一杯のわたしはもっともと思い、何か適当な品をと思って家の中を探す。ウィスキーが目に入ったが、作業員は3〜4人いたのでこれでは足りないと思い、二階に行こうとすると、階段の第一段目が劇場の舞台のように高くなっていて登れない。右往左往するうち、引越しの作業員が補助的な踏み台を置いてくれたので、何とか階段を登ることが出来て二階に行くと、家内がいたのでワインを人数分あげようかと相談する。その時突然、わたしにはずいぶん長いこと連絡をとっていない愛人がいたことを思い出す。おそらく、3年は会っていない。彼女のことだからじっとわたしからの連絡を待っているのだろうと思うと愛しくなり、すぐにでも電話を掛けたい。家内にちょっと散歩して来ると言うと、怪訝な顔をされる。それでも、何故かすべてユニくろの服に着替えて外に出るが、掛けようかやめておこうか逡巡するのであった。