霧海箎

午後尺八を吹く。二尺三寸管が購入以来最高の音色を出し、調子に乗つてたくさん吹く。たまにかういふことはあつて、音も大きく澄んでゐるのに息はいつもより続いて余裕をもつて吹けるのである。要するに効率よく吹けてゐるから音も出て呼吸も楽なのであらう。大和楽、布袋軒鈴慕、流し鈴慕と来て、音がよく出てゐる時にはとても気分良く吹ける霧海箎(むかいじ)を吹く。手は難しくないのだが、音が出てゐないとちつとも清清しい気持ちになれない曲である。其れから三谷清攬で逆に低音の響きを楽しみ、鈴慕をもう一度お浚ひしてから、布袋軒三谷と虚空を吹く。これくらゐ音が出てゐると音の強弱や微妙な音の変化にも気が廻つて吹いてゐて楽しい。人に聞かせたいくらゐだが、問題はいつもこのやうに調子がいいわけではないといふことである。プロの演奏家は常に其の状態(もちろんレベルは違ふにせよ)で吹くことが求められる訳だから大変だと思ふ。
夕方から墨を磨つて年賀状を書く。今年は例年より多くて六枚書いた。今年の五月に東寺のがらくた市で作つた「隆源」の印を初めて押す。