海の栓

四月十六日(月)晴
海辺の辺鄙な村である。村役場が海上に作られた大きな浮島の上にあり、始終波に揺られてゐる。しばらくしてひときは大きな波が打ち寄せると島全体が大きく傾いて人が何人も海に落ちてしまふ。しかも、近くを通つてゐた中型の客船もひつくりかへつて沈没し始める。すると、浜に近い海で泳ぎ遊んでゐた小学生くらゐの女の子たちが一斉に海中に潜り始める。なにごとかと思つてゐるとみるみるうちに海水が減つてゆき海底が露出し、船の中に取り残された人たちや海に落ちた人たちが救出される。女の子たちは笑顔で「困つたら海の栓を抜いたらいいやんかあ」などと言ふ。海の栓は至るところにあつて女の子の力でも簡単に抜けるからほんたうに助かる、などといふこゑも聞こえる。わたしも海の底に降りてみるとなるほど丸い栓がいくつもあいてゐて、格子状の網目の入つた床の下は排水路らしく、黒黒とした水の流れも見えてゐる。海といふものはかうなつてゐたのかと感心しつつ、では今度はどうやつて海に水を満たすのだらうかと訝しむでゐる。