温故知新

六月九日(土)雨
八時過ぎ家を出で十時より戸山町一如庵にて尺八稽古。越後三谷を続ける。稽古後先日の京都で見た竹勇銘の尺八の事をお聞きすると、令先生に聞けばいいといふことで其の場で話すに、令先生も竹勇作の竹を持つてをり律がしつかりしてゐて悪くないやうだ。借用して吹いてみることも出来るやうで予算の問題はあるが興味は増してゐる。其の後古本屋二軒を回り、犬養道子『ある歴史の娘』を150円、桑田忠親『本朝茶人伝』を450円で購ふ。
それから地下鉄で大手町に移動し、十二時半前新丸ビルの新八といふ店に入るに程なくしてY氏がN氏を伴ひて現る。Y氏は余の務める会社とは別の某香料会社にて重役を務められたる調香もされた方で、偶々知己を得て通信などをお送りしてゐる。N氏は某化粧品会社で重役を務めし方にて、お二人とも退職後も香りや化粧品に関する団体・協会等で活躍されてゐる。今回お二人が余と会つて話がしたいとの事にて、N氏は今回初めてお会ひするのである。お二人とも拙著を読まれてゐるとの事であるが、匂い・香りに限らず話題と経験の豊富な方々なので、話は尽きずあつといふ間に店の閉店の三時になつてしまふ。余は両氏が壮年期に活躍されてゐたころに出会つたすでに年長であつた人々をからうじて知つてゐる世代なので、割合に共通の知己もあつて話は早い。若い連中とゐると話が合はないばかりか無知さに苛立つことも多いこの頃では、かうしたシニアの方たちの、それも当時としてはハイカラな様々な経験をされて來た人たちと話すのは楽しいものである。今回はN氏の、また会いたいから今回はご馳走するとの好意に甘える格好になつたが、余としてもまた是非お会いしていろいろな話を聞きたいものと思ふ。
N氏とは半蔵門線から田園都市線で同道し、池尻大橋にて袂を別つ。余は其のままつくし野に到る。其処で後から着いたN子と岳母に合流し、迎へに來てくれた岳父の車でまず岳父の誕生日祝ひとて靴を買ひに行き、それからN子の実家に戻つて夕食を倶にす。帰りは中央林間まで送られ小田急経由で帰宅。