遅刻夢−或いは夢中

十月九日(水)晴
学校に行く支度をしている。家はマンションの一階だが、高台にあるのか眼下に里芋畑の葉が広がっている。家には家人と義妹と、小学校の時の同級生千葉がいる。どう考えても間に合わない時間になっている。急いでいるのにこんな時に限ってベルが鳴り、玄関に出てみると早稲田大学のコーラス部が募金に来たのだという。それもアジアからの留学生が集めているものだから、やむなく二千円を出すと、義妹のかよちゃんが自分もコーラスをやりたいと思っていたので入りたいと言い出し、パンフレットを貰うという一幕もあった。再び部屋に戻り、そういえば月曜の1限は出たことがないことを思い出す。一時間の有休を取ればいいかとも思うが、そういうつもりでいると一時間ですまなくなるよと千葉が言う。遅くなって悪いな、辺鄙なところなんでと私が言うと、いや町中のいいところじゃないかと言う。私は里芋畑を見下ろしながら、そうかなあと思う。とにかく着替えることにするが、なかなか良い組み合わせが見つからず何度も着替え、しかもカバンふたつにいろいろなものを入れなくてはならず、見つからなかったり入りきらなかったりで、途方に暮れるくらい時間が経ってしまう。私が思わず父が車で送ってくれればいいのにと言うと、その場にいた叔母や伯母たちが変な顔をする。どうしたのと言うと、父はもう三ヶ月前に亡くなったというのだ。私は全く覚えていず、もしかしたらショックの余り記憶から消したのかもしれないと思う。仕方がないのでバス停に向かうが、中学に行くのにどうやって乗り継ぐのかがわかっている訳ではない。むしろ反対方向に向かうような気がしている。バスはすぐに来て220円を払って後ろのほうの席に腰掛ける。景色を見るとどうやら三鷹の実家に居たらしい。途中女子高があってチアリーダーなのかあられもない恰好で踊っているのが見えた。駅に着くと、会社の若い女の子のTさんが居たので、この電車に乗れば間に合うんだっけと聞くとそうだと答えるのでほっとする。すぐに電車が来て乗り、またすぐに着いて降りて改札を通ろうとすると空港のエックス線チェックのようなものに引っかかり、荷物を全部だしてくれと言われる。私はイライラして急いでいるんだがと言うも聞き入れられず、すると若い女性の係官が、では荷物は後で会社の萩谷さんの方に送りますからと言う。萩谷さんを知っているんですかと聞くとそうだと言う。それならその方がいいと思い、三つも持ってきたカバンのうちひとつの財布が入っているのだけ取り返して去ろうとすると、私の持ってきた他のバッグからキノコの標本見本のようなものがたくさん出てきてこれは何ですかと聞かれる。私はしまったと思い、関税をとられるかなと心配し始める。

遅刻しそうになる夢はよく見る。不思議と行こうとしているのは中学校であることが多い。そして行ってみると、そこには会社の同僚も、大学や高校、小学校の同級生もいる。夢のような中学校、「夢中」である。遅刻しそうになる時の心細さと哀しさと焦りと絶望の入り混じった遣る瀬無い気持ちは、ふだんの生活ではもう余り感じることのないものである。今は余裕をもって出勤しているし、電車が遅れて遅刻しても怒られる訳でもない。それなのにいつまでもこんな夢を見る。