初釜

一月十七日(日)陰
岳母の社中の初釜也。和服にて赴き濃茶の後余が作りたる組香さくさく香を爲す。其の後本來懐石なるも岳母の負擔大なるを鑑み松花堂辨當の晝餐となる。岳母心尽くしのもてなしなるに、中に見た途端「多過ぎ」とか「全部食べられない」等の發言を爲す者在りと家人気付きて告ぐ。驚き呆れて開いた口塞がらず。主人の心尽しを無にする無神經、そもそも茶を習ふ資格無しと言ふべし。斯くの如き言を爲す者、高學曆にて中年に至りて俄かに茶の湯を始めたる者に多し。憎むべし。社中の若い娘は早くから茶の道の心遣ひに慣れたる故にか却つて斯くの如き不始末少なし。世に高學曆にて和の文化に疎くして俄かに茶や花香の道など始めたる無神經な中年女程度し難く唾棄すべきものはなし。岳母は非常識の事柄に驚くも厳しく指導する事好まざれば、特に怒ることもなけれども、余は斷じて茶の湯を習ふ以前の非常識として破門とすべしと思ふ。利休の今の世にあらば其の驚愕と絶望の如何許りかと想像せば、思ひ半ばに過ぐ。茶の湯の末世斯くの如く言語道斷の軆たらく也。悲しむべし。憎むべし。
余は中座して如道會例會に赴く。先生諸先輩と久闊を叙し、吹奏の後新年會となり談笑二時間余。楽しく過ごして六時過ぎ辞して歸途に就く。