後進国

十二月九日(金)
通勤時マスクを携帯するようになった。電車の中ではかなりの割合でマスクをした人がいる。これは風邪を引いているというより予防の意味合いが強いようである。確かに、通勤時の混雑した車内では、誰かが風邪を引いていたらそれが感染する可能性は高い。しかし、マスクにはそれだけではない効果がある。匂いである。最近、衣料用柔軟剤の匂いをぷんぷんとさせた人が多くなって、私にはその匂いが堪えがたいものになっている。若い女性などがそうした匂いを漂わせていると、私はあからさまにしかめ面をして鞄からマスクを取り出して付ける。ほっと息を吐き、またすーっと吸うことによって、匂いが強くて息を吸えなかったことをアピールすることも忘れない。ただ強烈なだけで、下品で香りの美を少しも感じさせない匂いを、本人はお洒落なつもりで撒き散らしているのだから始末に負えない。だいたい、宣伝からして笑止である。たかが衣料柔軟剤の香りを、あたかもエレガンスの必須要素のように扱うとは。香りで魅せたいなら香水があるでしょうがと言いたい。洗濯したてであることを香りで誇示したいというのは、正直言って後進国の心性であり、欧米にくらべて経済状況のまだ低い地域での話である。そういった国々でも、少し生活に余裕が出来れば、香水やデオドラント製品など、もう少し香り的に洗練された商品を使うようになる。日本の場合、柔軟剤が香り製品の代表的なものとなりつつあり、香水調の柔軟剤という馬鹿気きった商品が続々と登場している。ほとんど国辱、世界の笑いものである。香り後進国ニホン。まあパチンコ屋の喧噪と猥雑さが都市をいかに下品なものにしているかにさえ無感覚になっている国民性の、お里が知れるとはこのことである。