戦場と老兵

四月二十二日(土)陰
大きなビルの最上階に居る。停電なのか燈火統制中なのか真っ暗闇である。雷鳴がして稲妻が凄まじい。これは危ないと思っていると雷がいつの間にか砲撃となり、私は必死で物陰に隠れる。時々雷や爆裂で明るくなると、どうやらそこは橋本先生の書庫のようである。一瞬の光をもとに、書棚の書名を見たりしていると、グラマンの機銃掃射まで始まった。やがて米軍の攻撃が止み、休戦なのかそういう取り決めなのか、米国のノリのいい音楽が鳴り始め、向う側ではスタイルのいい白人や黒人のダンサーが出て来て踊りはじめる。それがなかなか格好いい。するとこちら側からも日本の女性たちが出て来て踊り始める。中には着物姿もあり、背中に中谷美紀と染めてある。ところで、私が居た建物の一階には居留外国人がたくさんいて、彼らは「カテゴリー」と呼ばれて米軍からの攻撃は受けないことになっている。ちょうど彼らは広い食堂で朝食をとっているところである。私は日系の米軍将校に扮して中に紛れ込み、偵察してくることにした。階段でおそらく本物の日系将校と行き合い、英語で会話しながら食堂に入っていく。その将校とはすぐに友達になる。やがて戦争が終わったのか、私はそのまま進駐軍に勤務する将校である。行きつけの食堂の娘と仲良くなって、ある日二人で外に食事に出た。将校のみが入れる店だったが、たまたま彼女と別の場所にいるとき俄かに停電となり、彼女が戦争中の体験から暗闇を恐れていることを知る私は、急いで人混みをかきわけ彼女のもとに行き、抱きしめたとたんに明かりがつく。彼女の安堵した幸せそうな顔を見て、結婚しようと決意する。
職場の研究所に行くと、居室の壁が壊れて人が通れるくらいの穴が開いている。アシスタントのいる隣室との行き来には便利だが、その代り天井がなくなっていてコンクリートや配線が剥き出しになっている。職場の皆は壁に穴が開いたのを喜んでいるようなのだが、いやしくも香りを作る人間がこんな殺風景な天井の部屋でよろこんて仕事をしていいのかと私は抗議をするが、誰も聞く耳を持たない。私はがっかりして孤立感を覚えるが、それでも仕事をしようとコンピューターを開く。ところが、変なログインをしたらしく自分の画面ではないので直そうと思うが、何度もキーボード操作を誤りうまく行かない。私はうんざりして営業のいる部屋に行く。若いMという女の子がいたので、会社の新しいミッションチームの略号の意味を教えたりしているが、そのメンバーが入社二・三年目の若い者で占められていることを、私より年上の、賃金カット年齢の営業に教えられる。老兵は去れということですねと私は言い、もはやどこにも自分の居場所がないことを知る。