一年、そして嶺庵茶話会

三月十一日(日)晴
震災より丸一年也。あの日の事を思ひ出すとともに、被災者の悲しみと苦しみに思ひを致す。復興への願ひと、管政権の愚鈍さに対する怒りを忘れてはなるまい。最悪のタイミングで史上最低の宰相を抱いた此の国の不幸である。
此の日嶺庵茶話会にてKさんを招く。KさんはN子と余にとりて恩人のやうな方にて、まだ知り合つて間もない余に太鼓判を押してN子に薦めて頂いたといふ経緯がある。易学にも通ずる博識で活動的なご婦人で、余は亡き御主人の召された大島紬の着物も拝領してゐる。本来もつと早くにお招きしたかつたのだが、お忙しい方なので都合が合はず、やつと実現の運びとなつた訳である。
二時半車で駅まで迎へに行き、呈茶、聞香、吹禅といつも通りに進み、其の間も歓談が続く。此の日は床には定家の春二十首の色紙を掛け、前日岳母から頂戴した椿を二輪を生けたところKさんは椿を大いに好むとのことで、Kさんから貰つた手付き籠の花入れに生けたこともあり喜んでもらへたのは幸ひである。

此の日は尺八がいつになく好調で、音がよく出るだけでなく弱音も伸びがあつて吹いてゐて気持ちがいい。大和樂、普大寺虚空、松風、無住心曲、流し鈴慕を吹く。特に無住心曲は今までで一番上手く吹けた。松風も茶釜の松風の音と相和すかのやうで、松図蒔絵の香合とともに趣向を愉しんで戴けたやうである。
其の後懐石となり献立は下記の如し。酒を嗜まぬKさんに合せ余も自重するつもりなるも、鯛昆布締めが余りに旨くて熱燗を少々呑む。下戸にも関はらずKさんは日本酒の知識も豊富で大阪の島田商店の社長と懇意で、電話で食事内容や人柄を言つて最適な酒を送つて貰ふのだといふ。今回忙しくて酒を用意できなかつたのでお礼に送るから何が良いかと聞かれ、島田商店の取扱リストにもあつた「北雪」を早速リクエスト。併せてもう一本、余の好みや人柄を島田社長に伝へて選んで貰ふと言ふ。楽しみである。
九時半過ぎ徒歩駅まで送り袂を別つ。よく食べよく笑つた楽しい一日であつた。

先付 白和へ 雁もどき 嶺庵特製胡麻豆腐
向付 鯛昆布〆 煎り酒
煮物 蕪 椎茸肉詰 蓮根
焼物 塩鮭 舵木鮪醤油漬け
汁  なめこ
飯  白飯 生卵 煎り酒
香のもの 筍醤油漬 しばづけ (京 近為)
果  苺