三昧

癸巳 元旦 晴
八時起床。元旦恒例の坐禅、読経の後各々今年の抱負為すべき事を半紙一枚に認む。それからおせち料理を食べ、年賀状を見る。食後在所の氏神である神明社に詣づ。
此の日は朝食時と夕刻から夜にかけて音楽を多く聴いた。まづは新年を寿ぐ如道先生の尺八「蓬莱」を聞き、本條秀太郎師匠の端唄CD『雪』を聞く。「我がものと思へば輕し傘の雪」は大好きな曲である。
それから、音楽では鎖国を止めることにして、ライ・クーダーのプロデュースになる名盤『ブヱナビスタソシアルクラブ』を聞いてルーベン・ゴンザレスのピアノに痺れる。結局のところわたしが最も愛する、そして最も美しい音を奏でると思う楽器は、人間の声と尺八、そして三味線とピアノなのだと改めて認識する。それにしても恰好いい爺さんたちである。
お次はエミール・クストリッツァ監督の映画『Le Temps des Gitans』のサントラでゴラン・ブレゴビッチ作の曲が入ったCD。わたしはこの監督の作品が大好きで、ほとんどの作品に音楽を書いているブレゴビッチの大ファンなのである。この中の「エドレジ」は名曲。続けてクストリッツァ・ブレゴビッチのコンビで『アンダーグラウンド』。こちらも傑作の映画で、わたしが生涯の10本の中に入れているもので、ブラスを多用した悲しくも明るい曲の数々は映画の興奮を蘇らせてくれる。
それから映画続きでキエシロフスキーの傑作『二人のベロニカ』のサントラ。この映画の中で流される余りにも美しい音楽が、映画の中では18世紀ベルギーの作曲家のものという設定になっていて、わたしはそれを信じてCD屋に探しに行ったが店員もそんな作曲家は聞いたことがないという。それもそのはず18世紀はフィクションで、現代の作曲家プリズナーのものと分かったという因縁つき。とにかく地上のものとは思えぬ美しい曲で、やはりキエシロフスキーの映画で『トリコロール』の青と赤のサントラ盤もわたしは持っている。ブレゴビッチと並んで尊敬する作曲家である。
夢のような美しさに溜息をついた後は、チッコリーニによるサティのジムノペディ。特にその一番はわたしがこの世で一番好きな曲。いろいろなピアニストのCDを持っているが、最初に聞いたチッコリーニのものがやはり自分の好みになったようだ。この曲はいろいろな思い出がありすぎて、聞くたびに必ず泣く。
そして最後にビル・エバンスの『I Will Say Goodbye』をかける。その頃にはマッカランをストレートでちびりちびりやっているから、これ程夜の締めに相応しい曲はない。数あるエバンスのCDの中で、わたしはこれが一番好きなのである。
やはり音楽は素晴らしい。そう思いながら安らかに眠りに落ちた。良い正月である。