ジャン-フランソワ・ラティが亡くなった。
Givenchy Ⅲ, Lumiere(Rochas), Jazz(YSL), Eau Dynamisanteなどの作者として知られるパフューマーである。年明け早々に亡くなったと、香水の情報サイトにあった。悲しい知らせである。最後に会ったのは25年くらい前になるだろうか。
私がパリで調香師の修行をしている頃からずいぶんと世話になった。気さくで陽気な人で、いろいろなことを教えてもらった。日本に戻って仕事内容や職場環境の悪さから嫌気がさしていた自分が出張でパリに寄った際には、クリエーションに向かうモチベーションについて熱く語って励ましてくれた。
そうそう、私の最初の結婚の披露パーティにも来てくれた。その相手とは離婚してしまったが、ジャン-フランソワもしばらくして離婚していたし、そう言えばチーフのピエールも、同僚調香師のフィリップやブノワも皆離婚経験者だ。自分で言うのも何だが、皆パフューマーらしい、自由で孤独でクリエイティブで、そして女好きな連中だった。懐かしく、そして悲しい。
セーヌ河沿いのパリ郊外にあった、あの頃ラティ一家が住んでいた家に呼ばれて行ったこともある。何を話したのだろう。その後別れることになる奥さんの描いた絵がいくつも掛かっていたのをよく覚えている。あまり好きな絵ではなかったからだ。
たぶん、まだ70代だったのではないかと思う。グラースにいると聞いていたから、いつか会えるのではないかと淡い期待をしていたのだが、それも叶わぬことになった。
夕方このニュースをたまたま見つけて、何だかがっかりして力が抜けてしまった。仕事を一緒にしていた人だから、ともに過ごした時間も長いし、優れたパフューマーとして尊敬もしていたから、最近では珍しいほど、悲しみで頭の中がからっぽになって、通常の思考が入ってこない状態だ。いろいろな断片的な記憶が蘇って来ては、喪失感でぼおっとする。
今夜はちょっと、酒でも飲みたい気分である。